キュケオーンが出てくる文献。「イリアス」「オデュッセイア」以外の「女神デメテル神話」関係。
コレに出てくるのが世間一般でよく話題に出る「エレウシスの秘儀」絡みのキュケオン。女神デメテルの祭儀なのだからそりゃそうだ。
ホメーロス風讃歌(作者不詳)
『ホメーロス風讃歌』の「デーメーテール讃歌」第210行に、デーメーテールがケレオスの館で提供された赤ワインを拒否し、水と大麦、ペニーロイヤルミントから作られたキュケオンを受け入れるという場面がある[注釈 10]。
[注釈 10]^ なお、ホメーロスの叙事詩では別の表現となっている。『イーリアス』(XI, 638 – 641)では、プラムニアのワイン、大麦及び粗挽きのヤギのチーズで作られるとし、『オデュッセイアー』(X, 234)では、これに魔女キルケーが蜂蜜を加え、魔法の薬を注いでいる。
※ホメーロス風讃歌 古代ギリシアに作られた作者不詳の33篇の讃歌集。作者不詳だがホメーロスの作かも?とも言われている。「水と大麦、ペニーロイヤルミントから作られたキュケオン」はこの「作者不詳の詩篇」に出てくる。
岩波文庫「ホメロスによる4つのギリシャ神話」
「大麦に薄荷を溶かした飲み物(キュケオーン)」「注釈によると、麦を溶かして粥状にしたもの」が出てくるという話があったので確認。
女神のためにメタネイラが、甘い香りの葡萄酒を盃に満たし与えたが、女神はことわった。赤く燃える葡萄酒は飲んではならないものだから、と女神は言い、かわりに、挽き割り大麦と水に、柔らかな薄荷草を混ぜた飲み物をくれるよう頼んだ。
メタネイラが言いつけられたとおりにキュケオーンをこしらえ、女神に差し出すと、いと畏い女神デーオーは受け取り、祭式にのっとり[…………(飲みほした。)]
p26、デーメーテールへの讃歌、206-211行。
206 葡萄酒は飲んではならない---通常の祭儀と異なり、デーメーテール信仰では葡萄酒を用いないで供犠を行う慣習があり、その縁起を述べていると解されている。また、秘儀の入信者も酒は禁じられたらしい。
210 キュケオーン---二〇六行以下の段落に描かれているとおりの半流動体の食事で、エレウシースの秘儀の入信者が供されたと考えられている。
p189 訳注
ギリシャ神話
ギリシャ神話と一言で言っても出所が色々あるので確認中ですが、見つけたものをざっくりと書き出します。
上の「ホメーロス風讃歌」のデーメーテール讃歌のことなのかな?と予想している。
女神デメテルの話は四季の気候の始まりについての神話や、乙女座の神話になっている(娘が冥府に連れ去られている冬の時期は星座は見えない、春になると星座が見えはじめる)。
山室静さん翻訳のギリシャ神話の本に、女神デメテルがハデスにさらわれた娘ペルセポネを探すくだりにこんな文章がありました。名前は出てきていないけどキュケオーンです。
彼女は蜂蜜をまぜたおいしいブドー酒を出されたが飲まず、農民たちが収穫どきに飲むハッカをまぜた大麦湯を所望した。
上記の部分が根拠なのかはよくわかりませんが、おおよそは「農民を中心によく飲まれていた」という見解になっているようです。
マグロの塩焼きにパン、ワイン 古代ギリシャの食文化とは
古代ギリシャの飲み物にはどんなものがあったのでしょう?
「キュケオン」は農民を中心によく飲まれていた清涼飲料水です。大麦のひき割り粉にミントを混ぜたもので、儀式の際にも用いられていました。
この記事の主な資料はこちらの本のようです。
変身物語
ホメーロス風讃歌(ギリシャ神話)の別系統のバージョン(とても雑な説明)。
日本だと「ギリシャ・ローマ神話」みたいなタイトルで翻訳されている気がする(推測)
『変身物語』(へんしんものがたり、ラテン語: Metamorphoses)は、古代ローマの詩人オウィディウスによるラテン文学の名作。神話原典のひとつである。『転身物語』(てんしんものがたり)や、原題のまま『メタモルポーセース』などとも呼ばれる。
15巻で構成されており、ギリシア・ローマ神話の登場人物たちが様々なもの(動物、植物、鉱物、更には星座や神など)に変身してゆくエピソードを集めた物語となっている。
ペルセポネー2 「ペルセポネーの略奪」の物語は,いくつものヴァージョンがあります.“エロースの矢がハーデースを射たこと”から始まるヴァージョンに対 し,“ゼウスが初めから了承した略奪劇だった”とする話.キーとなる果物「ザクロ」の位置づけも,微妙に異なります.ギリシャ語で書かれた「ホメーロス風 讃歌」, ラテン語で書かれた「変身物語」のどちらかから採られた話かによる?
http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2018/04/09/005253
1年のうち三分の一は冥界で過ごし,残りの三分の二は地上で暮らすことになります.(ホメーロス風讃歌)(変身物語では1/2冥界,1/2地上)
http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2018/04/11/025636
転身物語(上)グーテンベルク21 田中秀央・前田敬作訳
今回必要なのはデメテルの地上放浪の話(の中でキュケオンをもらった話)なわけですが、変身物語でもその場面はあるようです。
要確認用メモ。
(106)水とハルタデと妙った大麦とをまぜたスープのようなもの。蜂蜜で甘味をそえたり、 チーズやぶどう酒をくわえることもあった。なお、ここに出てくる老婆は、娘をさがしてエレウシス(アテナエの北西海岸、 ケレス・デメテル崇拝の中心地)に来たケレスを歓待したといわれるバウボのことであろう。
著者: オウィディウス/田中秀央・前田敬作訳
訳者からすると電子書籍の元の本はこちらのようです。1966年に人文書院より。
ケレス=ローマ神話に登場する豊穣神、地母神、地下神。 古くからギリシア神話のデーメーテールと同一視
「ハルタデ」は植物名で良いのかな…。
ここでのポイントは「炒った大麦」と炒っていることを明記してある事かなと。あとは「チーズやぶどう酒」は「入れることもある」という説明になっている。
変身物語(上) 岩波文庫 中村善也訳
底本は原則としてW・S・アンダーソン校訂のトイプナー本。
巻5・ケレス 440~460(p202)より
労苦に疲れて、渇きがつのりますが、口を湿すべき泉もないのです。
そうこうするうちに、たまたま、藁でふいた小屋が目にはいります。
ちっぽけな戸をたたくと、なかから老婆が出て来て、
女神を眺めます。水を求めると、
煎った麦を浮かした蜂蜜酒をさし出しました。
女神がそれを飲んでいると、見るからにつらの皮の厚そうな、不敵な少年が、
女神の前に立って、あざ笑いながら、「がつがつした婆さんだな」といったのです。
腹を立てた女神は、まだ飲み残しの、酒と混ざった麦粒を、
そういっている少年に浴びせかけました。
下記は別項で挙げた藤村シシンさんの再現料理制作のまとめで、「2.秘技おかゆ」の見出しの項目がキュケオーンです。
まとめにあった「デメテルが無礼な人間に浴びせかけたりしている描写」という説明はこの変身物語の場面のようです。つまりオデュッセイアの記述と、変身物語の記述を参考にしています。
#古代ギリシャ料理 を作る~悪魔のクソ風味マグロ、秘儀おかゆ、女陰型の神聖ケーキ等
水に浸しておいた大麦にギリシャ産赤ワインを入れ、山羊のチーズ、蜂蜜を入れ熱して混ぜる
上記に引用した岩波文庫版の訳文だと「煎った麦を浮かした蜂蜜酒」となっています。
水をくださいとお願いしたデメテルに、麦を浮かせた蜂蜜酒という「水分」を渡しています。飲み残しに関しても酒と混ざった麦粒という説明です。これを浴びせかけられたことで少年にはまだらのシミが肌に浮かんで「まだらとかげ」になってしまいます。
この訳文では完全に「水分メインの飲物」として扱われています。