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[メモ]キュケオーンが出てくる文献[その2 イリアス]

投稿日:2018-09-02 更新日:

古代の文献でキュケオーンが出てくる場面についてのメモです。

その1「オデュッセイア」、その2「イリアス」、その3「女神デメテル関係」、その4「その他」、としてメモします。

 

イリアス(ホメロス作)

イリアスに出てくるキュケオンは、第十一書(第11歌639)にて、陣屋の中で歓待を受ける場面で出て来ます。

 

 

 

 

青空文庫より 土井晩翠訳『イーリアス』

第11歌639

黄金製の二羽の鳩餌をついばめる彫刻の
美なるものあり、盃は下に二つの脚備ふ。 635
此盃の滿つる時卓より之を動かすは、
老ネストール除く外、誰も難しとするところ、
姿神女に髣髴の麗人、中に混成し
造る飮料――青銅の※器(おろし)[#「金+坐」、U+92BC、617-12]によりて乾酪を
おろしゝものと白き粉を、プラムネーオス産したる 640
に混ぜる飮料を二人に勸め酌み干さす。

https://www.aozora.gr.jp/cards/001099/files/46996_40612.html

底本:「イーリアス」冨山房 1940(昭和15)年11月15日発行

 

 

 

イーリアス(ホメロス作) グーテンベルク21

女神にも似たその女が、プラムノスの酒で混粥をつくり、山羊のチーズを青銅のおろしですって、白い麦粒を上にふりかけ、混粥の用意を万端調えてから、飲むようにと、すすめて出した。

イリアス(上) – Google ブック検索結果

こちらの電子本はレビューによると「呉茂一訳とあるが、岩波文庫の昔の訳とは異なる」とあり、実際に平凡社ライブラリー版とは内容が異なりました。グーテンベルク21版のほうが現代語訳というか、内容は一緒だけれど漢字や言葉遣いが現在風になっていました。

1964年版の岩波文庫は呉茂一訳で、この版は現在は平凡社ライブラリーに収録だそうです。版情報は下記参照。

『イリアス』を読むために

http://d.hatena.ne.jp/my_yours/20130106/1357442747

 

 

 

 

ホメーロスの イーリアス物語 (岩波少年文庫)

バーバラ・レオニ・ピカード (著)、高杉 一郎 (翻訳)。

イギリスの児童童話作家バーバラ・レオニ・ピカードが再話(翻訳及び再編集)したもの。

 

「門が突破された」P178より

ネストールの小屋を訪ねると、マカーオーンは寝ていた。そして、そのそばには長老のネストールがすわって、ブドウ酒の上にチーズと大麦のひきわりをふりかけたものを、国もとからもってきた杯で飲みながら、疲れをいやしていた。

粥の上にではなく、ぶどう酒にチーズと大麦のひき割りをふりかけたという表現になっていますが、大麦です。

 

 

 

 

イリアス〈上〉 (岩波文庫) 1992~

次はこちら(http://www.geocities.jp/hebereke2006jp/book/irias.html)のページから引用をお借りしました。

「女はまず二人の前に、青黒い琺瑯張りの脚のついた、よく磨かれた美しい四脚机を据え、それに青銅製の籠と、 飲物に添えてつまむ玉葱と、新鮮な蜂蜜とを載せ、またその傍らに聖なる大麦の粉と、実に見事な盃とを置く・・・(中略)。

さて女神に見まごう女は、客のためにこの盃でプラムノスの葡萄酒を用いて飲物を作り、その上に山羊のチーズを 青銅のおろしでおろし、白い大麦の粉をふりかけて、飲物を調合し終えると、客にすすめる。」(上巻 p.360)

イリアス〈上〉 (岩波文庫)

※岩波文庫の92年以後の版が松平千秋訳

古い方(呉茂一 訳)は「混粥・白い麦粒」、岩波文庫版(松平千秋 訳)は「飲物・白い大麦の粉」と訳が別れています。ナ、ナンダッテー…。

 

この場面、このあとの文章では

「(出されたものを)二人は飲み干して、たいそうひりつく喉咽(のど)の渇きをしずめてから」(呉茂一/平凡社ライブラリー版より)

とあります。

そのことから新しい松平千秋版では「飲物」としたのでは?と推測されます。

 

 

 

 

 

 

[メモ] プラムノスの酒 とは

「プラムノスの酒」は「赤ワイン」ということ以外はよくわかっていないらしいです。

下記は参照先のページの引用文を更にお借りして引っ張ってきていますが、表示仕様上二重引用がわかりにくい表示になっています、ご容赦ください。

 

澤正宏著『西脇順三郎のモダニズム』

『「ギリシア的抒情詩」全篇を読む』を読む

http://web.kyoto-inet.or.jp/people/tiakio/ancients/sawa.html より

 プラムノスの酒という言葉は、『イーリアス』第11歌639と、『オデュッセイア』第10歌235に出てくる。

http://web.kyoto-inet.or.jp/people/tiakio/ancients/sawa.html より

 

 プラムノスの酒というのは、後にイオニアの闊達な詩人アルキロコスの詩にも出て来る、アテーナイオス(”Dipnosophistae” 1. 30. c. d.)によると、イカロス島の産との説や、すべての「黒い」酒の称とか、いろいろで瞭かではない、まず強い苦味のある葡萄酒らしいが、どうしてそれが此の箇所に選り出されたか、これまた明らかでない。『オデュッセイア』の古註〔スコリア〕ではプラムノスという島の産ともあるが、この島の所在が判然しない、イカロス島の山の名(巌がプラムニオス、つまりプラムノスの巌というので)かも知れず、他は好い加減な故事つけで、理由は全く不明である。(『ギリシアの詩人たち』p.69-70)

多分この本

 

 

「葡萄酒のうち、あるものは白くあるものは黄色く、あるものは赤い」

[上記の注釈] ギリシア人の色の表現はしばしば読者を当惑させるが、ここの「赤い」の原語は実はmelanos. つまり「黒い」である。しかし葡萄に関するかぎり、「黒い」とはつねに「赤葡萄酒」を意味している。(訳本第1巻、p.117)

※引用先の記事ではここの説明に関して「なんかおかしくねー!?」と突っ込んでいる。当方の記事ではとにかく「ぶどう酒は『赤』」という話が重要なのでとりあえず引用。

上で引用したのは食卓の賢人たち (岩波文庫)の本文と訳注のようです。上記は文庫化する前のページ数で説明しているようなので、文庫版とは一致しないと思われます。

 

上のツッコミに関しての説明。「酒の色の表現の問題」ではなく「ワインが黒ってのはギリシャ語だとよくある定形の言い回し」なのに、「ギリシア人の色の表現はしばしば読者を当惑させる」という説明はおかしい、という話をしている(のだと思う)。

「暗黒の(黒い)葡萄酒(mevlaV oi\noV)」なるものもまた、ギリシア詩では慣用的な表現である

http://web.kyoto-inet.or.jp/people/tiakio/ancients/sawa.html より

「青々とした森」みたいなアレだと思われる。日本語だと昔は青と緑が同じ範囲内だったって聞いたことある。この言い回しのせいで日本人は緑が認識できないとか外人に誤解されるとかなんとか(大脱線)

 

話がそれたけど結論だけ言うとキュケオーンに使うワイン(プラムノスの酒)は赤!

なお、同HPの別の箇所にはこういう記述もありました。

「キュケオーン(kukewvn)」

大麦粉とけずったチーズをプラムネー酒〔濃くて渋い赤葡萄酒。イカリア島のプラムネー山に由来〕に混ぜた混合酒。「お粥」というのが最適。

キュケオーン(kukewvn)[006]の注釈(別ウィンドウ)より

http://web.kyoto-inet.or.jp/people/tiakio/urchristentum/protreptikos01.html

 

 

 

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