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[メモ]キュケオーンが出てくる文献[その1 オデュッセイア]

投稿日:2018-09-02 更新日:

振り返りで、古代の文献でキュケオーンが出てくる場面についてのメモを作りました(他項目で扱った参照部分のまとめ+追記メモ)

実際はもっとたくさんあるらしいのですが、正直一般人レベルでは何処に何が書かれているのかよくわからないので、もっと詳しい人とか本業におまかせします…。

量が多くなったのでざっくりと記事を分けています。その1「オデュッセイア」、その2「イリアス」、その3「女神デメテル関係」、その4「その他」、としてメモします。

特に更新履歴をつけずに文章を増やしたり減らしたりするかもしれません、ご了承ください。(その時々で見つけたものを入れたり動かしたりするため)

 

 

 

 

ホメロス(作者)

ホメロスについての説明はこちら。

もう一度学びたいギリシア神話 – 21 ページ – Google ブック検索結果

ホメロスは個人の名前とは言われていますが、伝わっている作品については複数の吟遊詩人の話がまとめられたものという説もあります。(現代に伝わっているものが複数の作者の手を経ているという点では見解が一致しているが、元から複数人だったのか、後世の作家が付け足していったのかは研究者によって意見が別れている)

ホメロスがいつ頃の人かについても決定打がなく意見が別れています。

 

 

オデュッセイア(ホメロス作)

オデュッセイアのキュケオンは、オデュッセイア第十書(第10歌235)にて、魔女キルケーの島に立ち寄る場面で出て来ます。

 

 

 

世界文学全集 (1)

こちらのHP(http://leonocusto.blog66.fc2.com/blog-entry-3038.html?sp)よりお借りしました。

するとキルケーはみなを館の中へ連れこむと、ソーファだの肘掛け椅子だのに坐らせ、一同にチーズや 割り麦や黄色い蜂蜜やらを、プラムノス産の赤ぶどう酒に混ぜ合わせたのを出しましたが、その食べ物へはあやしく恐ろしい魔法の薬を混ぜておいた、それはすっかり故郷のことを忘れてしまわせるためでした。それからこれをみなに与え、一同が飲み干すと、今度はさっそく杖をふるってうちたたき、豚小屋へと閉じこめたのでした。

世界文学全集 (1) ホメーロス,アイスキュロス他 オデュッセイア・古典悲劇集

呉 茂一 (翻訳)

 

少し古い訳本ですが、魔女キルケーが作ったキュケオンについてはこんな感じの説明になっているようです。

この訳だと食べ物とは言っていますがどういう料理かは断定していません。材料は「割り麦」と言っています。「丸いままではない麦」という状態です。大麦小麦は指定していませんが、おそらく大麦かなと。

 

 

 

魔女の誕生と衰退

web上で公開している翻訳より。

田中雅志オフィシャルサイト

ホメロス『オデュッセイア』(紀元前八世紀頃)~キルケ       Homeros, Odysseia (ca. 8 B.C.) ~ Circe

 

キルケは一同を招き入れると、イスや腰掛けに座るようすすめ、プラムノス(1)の葡萄酒にチーズと大麦粉と黄色の蜂蜜とを加えた 飲物 をみなにふるまった。ところが、飲物のなかには、祖国のことをすっかり忘れさせるために、有毒な薬が混入されていた。

(1)デルメル女神に供える神酒。

https://m34tanaka.jimdo.com/demonology-witch/%E5%8F%A4%E4%BB%A3/homeros-odysseia/

こちらのページは翻訳家の方のHPです。キルケーのくだりについて解説している記事よりお借りしました。出典は自著のこの本からだそうです(田中雅志 編著)。

こちらのかたは「飲物」と訳しています。あとは材料を「大麦粉」と説明しています。

 

 

 

ホメーロスのオデュッセイア物語

バーバラ・レオニ・ピカード (著)、 高杉 一郎 (翻訳)

イギリスの児童童話作家バーバラ・レオニ・ピカードが再話(翻訳及び再編集)したもの。そのため物語の順番が原詩とは異なる(時系列に添わせたのと、有名な別の再話に沿った形にしたと推測されている)。詳しくは下巻の訳者あとがき参照。

「魔法使いキルケー」P52より

キルケーは、大麦の粉と蜂蜜でつくった菓子や、銀の盃にいれた赤いブドウ酒を彼らのところへはこんできて、微笑をうかべながら、召しあがれと言った。ところが、そのブドウ酒のなかには、それを飲んだ人に生まれ故郷のことを忘れさせる魔法の薬がまぜてあったのである。

材料を菓子と葡萄酒に分けてあるが、「大麦の粉」という説明になっている。

 

 

 

 

オデュッセイア(上)岩波文庫 (1994年~)

と、ここまで大麦(多分)で来たのですが。

「オデュッセイア(上)」ワイド版岩波文庫 松平千秋(訳) 2001年、P257より(新板)

※ワイド版も文庫版も頁は同一。

原典はオクスフォード古典叢書中のT・W・アレンによる校訂本。

キルケは一同を中へ招じ入れると、ソファーと椅子をすすめ、彼らのために、チーズと小麦粉と黄色の蜂蜜とを、プラムノスの葡萄酒で混ぜ合わす。その上さらに、故国のことをすっかり忘れさせるために、恐ろしい薬をその飲物に混ぜた。

ここで小麦粉。なんでや。

p364 訳注

ニ五七6 『イリアス』第十一歌六三八以下で、ネストルの侍女ヘカメデが、主人と客のパトロクロスのために作る飲物(キュケオーン)が、ここでキルケの作るものと同じく、プラムノス葡萄酒、チーズ、麦粉を材料としている。プラムノスというのは、葡萄酒の種類の名に違いないが、その名の由来はよく判らない。

 

※[メモ]ワイド版は2001年発行(通常の文庫の新訳版は1994年発行)。

※新版は「オデュッセイア」

 

 

 

 

 

オデュッセイアー(上)岩波文庫 1971~

こちらは岩波文庫の最初の翻訳版。

「オデュッセイアー(上)」岩波文庫 呉茂一(訳) 1971年、p.303より(旧版)

原典は大訳をHomeri Odyssea,rec.P.von der Muhll. Basiliae, 1946 に準拠

Merry and Riddel のオクスフォード版(一八八六年刊)およびAmeis-Hentzeのトイプナー版(一九二二年刊、ライプチヒ)を参考として用いた。(文庫最初のはしがきより)

すると女は、館の内へ連れ込んでから、一同をソーファや台座に

腰を掛けさせ、またチーズだの割り麦だの、黄いろい蜜だのを

プラムノス酒に混ぜこんで出し、この食料に何か怪しく恐ろしい

魔薬を入れ込んだのでした、自分の祖国もすっかり忘れ去るようにと。

※旧版は「オデュッセイアー 」

 

新旧訳の比較

呉茂一さん訳の旧版のオデュッセイアーでは、最初に出した世界文学全集と同じく「割り麦」という表現になっていますが、松平千秋さん訳の新版のオデュッセイアは「小麦粉」になっています。

岩波の新旧版では訳者が異なるのと同時に、翻訳に使った原典が違うようなので、どの時点で小麦粉になったのかは不明。

イーリアスの方は新訳版も「大麦の粉」になっているのにどうして…(理由はよくわからないのでメモに留める)。

 

 

 

岩波文庫版についての紛らわしいデータについて

※SNS上で画家翻訳家と名乗る人物が下記のように引用している書き込みが見られたが間違い。恐らく(別の人がネットに上げている)新訳の引用を孫引きしたか、文面を自分で解釈した上で「オデュッセイアー 呉茂一訳」という旧版のデータを付けたもの。

「②オデュッセイアの部下を豚にした薬 ②の材料:チーズ、小麦粉、黄色の蜂蜜、プラムノスの葡萄酒」

「出典:ホメーロス『オデュッセイアー 上巻』、呉茂一訳、岩波書店、1971年、p.257

説明に出しているページ数が呉茂一訳旧版(p303)とは全く異なり、松平千秋訳の新版のページ数(p257)で表示しているので「読んだ上の独自翻訳」ではなく、実際の冊子ではなくネット上のデータのみを孫引きして注釈を替えた誤データっぽい。呉茂一訳の旧版のp257は第九書で、キュケオーンを出す場面ではない。

岩波のオデュッセイアーについて検索するとこのデータが出てきてしまい紛らわしいので、ガッチリ否定とメモをつけておきます…。

 

 

 

 

まとめっぽいもの

ここまで挙げてきた訳文を見るに、キュケオーンってもしかして絶対に「粥」って訳されるわけではないのではなかろうかという気がしてこなくもない。

いくつかの本を比較すると、訳者によって「飲み物・食べ物」「粒麦・ひき割り麦・粉」「大麦・小麦」が異なる。

キュケオンという言葉が『混ぜて濃くする』という意味ではあるが、原文だと料理名のみで、ど直球で『粥』とは言っていないし、そもそもレシピがみつかっていないので、訳者によって表現が分かれるっぽい。

また、底本(ギリシャ語原文から訳したか、英語等に一度訳されたものからの翻訳か)の違いで、表現が異なるのかもしれない。

 

イーリアスで出てくる材料は「大麦」か「麦※」という訳し方だが、オデュッセイアは岩波の新訳版でのみ「小麦粉」と訳されている(他は大麦)。

どうしてそう訳されたのか理由がよくわからないので、とりあえずはメモに留めておく。

※漢字圏では「麦」の中に大麦小麦が含まれるが、英語だと大麦と小麦は全く別物扱い。

 

 

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