別名「悪魔の糞」と呼ばれる香辛料が古代の再現料理ではよく出て来ます。今回はそのへんの話を。

アサフェティダ(フリー画像素材サイトより)
※使用問い合わせが来ましたが私が撮った写真ではありません
「アサフェティダ」はオオウイキョウ属の植物、フェルラアサフェティダの樹脂です。
インド食材の店ではヒングhingの名前で売られています。黄色い粉末のものはアサフェティダの樹脂に小麦粉、豆の粉、ターメリックなどが混ぜてあります。
アサフェティダの使用量には注意が必要で、入れすぎると不快な味になってしまう、と古代ギリシア・ローマの料理とレシピの著者は述べています。
神戸アールティー アサフェティーダ 50g Asafoetida ヒングパウダー Hing Powder ヒング 粉末 スパイス 香辛料 業務用
アサフェティダ Asafoetida のwikiベタ貼り。
インドにおいて香辛料として幅広く用いられる他、ウスターソースの原料としても使われている。強烈な臭気を喩えて、Devil’s dung(悪魔の糞)という呼び名もある。
仏教ではネギ属の多くの植物とともに、五葷のひとつとして食用を禁止している。[6]
というわけで「臭いが強い香辛料」ということがわかります。
ヒングパウダー アサフォーティダ Hing Powder (50gx2個)
この臭いがネタにされる事が多いですが、加熱すると匂いが変化します。
アサフェティダの特徴
アサフェティダは、原産地で『悪魔の糞』という異名を持つ独特の香りのスパイスです。
ニンニクやドリアン、腐りかけた玉ねぎのような強烈な臭気を発します。これは、アサフェティダが複数の硫黄化合物を含有しているためです。
そのままでは、苦みと辛味が強く、悪臭のせいで食べることはできませんが、油でアサフェティダを炒めると匂いと苦みが消え、玉ねぎのような香ばしい匂いに変化します。
http://spices-herb-mania.com/spices/01/asafoetida/
どうやって料理に使うの?
興味はあるものの使い方がわからない人のために、スパイス料理の本をご紹介。
【おすすめ本 1 】
インド料理・スバイスの使い方には定評のある香取薫さんの料理本「薫るスパイスレシピ」です。(リンク先に本文試し読みあり) ヒングに限らずスパイス料理本が欲しいかたにオススメです。
この本の最初の「おいしさの幅が広がるスパイス」紹介と、「カリフラワーのサブジ」のレシピに「ヒーング」が出てきます。少量使うと旨味が出ることと、ガスを抜く効果があるという説明が書かれています。
※ガスを抜く効果 インドの料理では豆が多用されるが、豆には消化吸収できない多糖類が含まれていて、これが腸内細菌を繁殖を助けるためガスを発生させる。豆を食べるときは複数の硫黄化合物を含有するアサフェティダを一緒に摂ることでガスが発生しにくくなる、とインド人はいう。(「香辛料の民族学―カレーの木とワサビの木 (中公新書)」より要約)
【おすすめ本 2 】
Kindle Unlimited(1ヶ月毎単位で電子書籍読み放題)で読める、ヒングを使った料理が載っているレシピ本を紹介します。
Kindle Unlimitedは年に何度か2ヶ月99円のキャンペーンをしています。現在登録していない人はキャンペーン開催中に登録して読むのがおすすめです。
掲載レシピについては、試し読みサンプルで目次が読めます。
また、サンプルでは読めませんが巻末に「料理別スパイス使用一覧表」が載っています。「ヒン」の項目を確認してください。7つのレシピに印がついています。
こちらの本は紙書籍も発売されています。
北インド 野菜炒めのレシピ: スパイスでおいしいインドの野菜料理
北インドで食べられる野菜炒めのレシピ集です。野菜とスパイスがたっぷりの北インドの炒め物が20品と、付け合わせのダール(レンズ豆のカレー)・ジーラライス(クミンシード・ライス)・ローティー/チャパティ(薄焼きのパン)のレシピ、合わせて23品が掲載されています。
もっといろいろな野菜を使ってインド料理を作ってみたい人に向けて、本書では日本でも食べられている一般的な野菜を使ったレシピ集となっています。
こちらの本は炒めもの中心のレシピ本です。材料に「ヒーング 少々」と書かれているレシピは全体の半分ぐらいです。
インドの野菜炒めではどんな食材を使うのか興味のある人にオススメです。
上記の他に「Indian recipe」で検索すると洋書も読むことが出来ます。スマートフォン版のKindleアプリでは翻訳機能が使えます。(PC版は現在は翻訳の項目は出てきません)
1.翻訳したい文字列を選択
2.「メモ」「検索」等のメニューバーが出る
3.メニューバー右の「>」を選択して「翻訳」ボタンを出す
4.翻訳ボタンを押すと翻訳される
【おすすめ本3 】
南インド料理の有名店「ケララの風」のシェフのレシピを紹介したレシピ&コラム本「作ろう!南インドの定食ミールス 」です。リンク先では目次が読めます。レシピとコラム(制作レポートなど)のページは半々ぐらいです。
紹介されているミールスの中にいくつかヒングを使ったレシピがあります。(サンバル、ラッサム、アチャール、ポリヤル)。この本に掲載されている料理画像(参考)は下記記事にて。
https://r.gnavi.co.jp/g-interview/entry/tamaoki/4206
この本の掲載レシピは「カレーリーフ(フレッシュ)」や「タマリンド(水)」などを使用するレシピも多く、実際作るにはこれらの材料を揃えやすい人(インド食材販売店が近くにあるか、通販で揃えられる)という人向けになります。アンビカショップ(実店舗)などが近い人は有利かなと思います。
カレーリーフの生産者直接通販だとポケットマルシェとか食べチョクとか。
※刷子作者の人はメルカリでの購入も想定しているようですが、以前メルカリで数日放置されて腐敗した生鮮系届けられた事あるのでコメントしづらい(出品者が知識不足で土日休業の配送代理店に金曜夜に持ち込んで月曜まで放置された)。あと未開封スパイス譲りします→開封済のもの送っちゃいました、とか。個人的には食品以外だと問題ないのに食品になると出品側理由の事故率が上がるので、ネット購入は生鮮配送に慣れている専門の通販をおすすめします。
中級者スパイス料理本が欲しいかたにオススメです。
【Amazon】作ろう!南インドの定食ミールス (Kindle版)
※見本はBOOK☆WALKERのほうが沢山確認できます
※こちらの本は物理本もありますが、自費出版本(同人誌)のため一般書店では取り寄せ・購入できません。一部南インド料理店での販売(大森/ケララの風、他)、自費出版本取扱いショップ、通販、などでの購入になります。
物理本購入については制作元の公式ページ(https://www.seimen.club/entry/meals)で販売場所をご確認ください。
※どういったレシピ・材料か雰囲気を知りたい人は、ぐるなびのこちらの記事「〈ケララの風モーニング〉直伝、南インドの甘くないドーナツ「ワダ」を揚げてみよう」を覗いてみてください。ヒングパウダーも使っています。
ヒング未使用ですが「ミールス:タイルパチャディの作り方」「幻の味になった南インドの定食「ミールス」を追いかけて」などの記事でも、本に掲載されているレシピの雰囲気がつかめます。
インド料理で使われるヒングは、スタータースパイス(最初に油を熱し、そこにスパイスを入れて香りや風味を出した後に具材を炒める使い方)や、テンパリング(熱い油にスパイスを入れて作る香り油。仕上げに加える)という、油で加熱する使い方が多いようです。(それ以外にも煮物に加えるレシピもある)
薫るスパイスレシピに掲載レシピの「カリフラワーのドライサブジ(シンプルスタイル・ごちそうスタイル)」、でヒーングが使われていますが、他のスパイスが小さじ1-2という単位なのに対して、ヒーングは「耳かき1杯」「少々」、と本当にごく少量が指定されています。この量でも香ばしい風味が出るそうです。初心者はまずはこの程度の「少々」で試すのがよさそうです。
(※香取薫さんの別の料理本「インドのお母さんに学ぶ健康ごはん 毎日ひとさじのクミンで胃腸を元気に! 」にもカリフラワーのサブジのレシピは載っていますが、ヒーングを使うレシピが載っているのは「薫るスパイスレシピ」の方だけです。レシピを知りたい方はご注意ください)
少量でも高い香辛料ですが、そもそもの使用量が少しなので、料理1食分の単価で考えると他のスパイスと大差ないのかもしれません。
「アサフェティダ」「ヒング」(20g)使いやすいご家庭タイプ。豆料理や野菜料理に。送料無料でポスティング!!
その他のレシピ
Indian Spice Asafoetida Recipes | Yummly
教えて!インド人ゴーリーさん家のスパイスカレー【レシピ編】※アーカイブなので読み込みに時間がかかります
※上段のティラキタレシピではレシピ提供者によって使用量はまちまち。2番めのBBCは四分の一 ~ 二分の一 tsp(小さじ (5cc))というクミンやターメリック等と同量使うレシピ。3番目のyummlyでは1つまみ~八分の一 tspぐらい。4番めインド人ゴーリーさん家のニンニクカレーでは6人分で小さじ1/2杯。
5番目のスパイシー丸山さんのブログでは別記事「スパイスストーリー ~ヒングの話~」でヒングのことに触れていて、「このヒング、油で熱しても香りが強いスパイスなので、料理で使う場合は、4人前に対して”ひとつまみ”ぐらいで大丈夫です。」と使用量について説明しています。
スパイシー丸山さんはインドではヒングとニンニクを一緒に使わない料理が多い(ヒンドゥー教の宗教上の理由)と説明していますが、その上のインド人ゴーリーさん家のスパイスカレーでは普通にニンニクとヒング(アサフェティダ)を一緒に使っていて、やはりインドは一筋縄では行かない…(笑)
アサフェティダを非加熱で食べてみたい
先述の通り「加熱すれば良いニオイに変わる」のですが、あえてそのまま料理に使ってみたいという人にはこちら。
チャットマサラというミックススパイスは、基本的には非加熱で生野菜や果物などに振りかけて使います。TVではポテトサラダに振りかけるという食べ方を紹介していたそうです。
その他の使い方の例はこちら 【MDH】 チャットマサラ100g :: Ambikajapan
MDH チャットマサラ 100g 1箱 Chunky Chat masala
見ての通り材料欄の一番最後に「アサフェティダ」が書いてあります。
一番最後ということは一番少量のはずですが、アマゾンレビューを読むと「硫黄のようなにおいが鼻をおそいます」「硫黄がずーっと鼻に残ってしまいます」などの言葉が。おそらく「非加熱で食べる際の期待に沿う」ニオイをしているのだと思います。
アマゾンレビューではこちらを使って玉ねぎのアチャール(っぽいもの)を作っているかたがいらっしゃいます。
買ってみてやっぱりダメだったら、残りは炒めものなど加熱用途で使えば良いと思います。
上記の商品が見つからないときはこちらもどうぞ。神戸スパイスの実店舗が近くにあればそちらで購入可能です。
使い方説明を読むに、TVで紹介されていたという「ポテトサラダにふりかける」という使い方はインド料理からヒントを得ているようです。
「世界のじゃがいも料理」に「アル・チャート(インド風ポテトサラダ)」のレシピが載っていました。
チャットマサラを使うチャナチャート(ひよこ豆サラダ)のレシピはこちら。上の「世界のじゃがいも料理」のアル・チャートと近いレシピ(野菜の分量が異なり青唐辛子が入っていない)だったので参考までに。
※通販時は送料を要確認
原材料:食塩、ドライマンゴー、ブラックソルト、クミン、マスクメロン、黒胡椒、コリアンダー、ミント、乾燥しょうが、ナツメグ、イエローチリ、キャラウェイ、レースフラワー、クローブ、アサフェティーダ
再現料理によく出てくるスパイス
このアサフェティダ、「古代ローマ・ギリシャ他(紀元1世紀以前)の再現料理」にはよく名前が出てきます。
といっても当時使われていたのは「アサフェティダ」ではなく「シルフィウム」(ラーセルの根)と呼ばれるハーブでした。
現代インド料理では、代用品の「アサフェティダ」は、「少量を最初に熱して風味をつける」など加熱して料理に使っています。またそれ以外にも外国のwikiによると少量のアサフェティダを塩と混ぜて生サラダと一緒に食べることもあるそうです。(先述のチャットマサラなど)
どうして今はシルフィウムを使わないのか、それは古代の時点で絶滅してしまった、と考えられているからです。(※シルフィウムについては次項目に追記あり)
幻のハーブ サフルーとズルム、シルフィウムについて
薬草や料理で使うほか、避妊薬としても大変な人気だったので、約600年の間キュレネはシルフィウム貿易によって繁栄しました。
しかし、シルフィウムを栽培しようとしてもうまくいかず、野生種のみだったため紀元1世紀ごろには絶滅してしまいます。
古代ギリシャの植物学者で植物学の祖として知られるテオフラストス(BC373年頃~BC287年頃)も、「シルフィウムはなぜか栽培することができなかった」と書いています。
古代にはどのように使われていたか、どうして絶滅したかの経緯については上記ページにて詳しいです。
キュレネについてwikiより。上記ページでも出典や地図付きで詳しく説明されています。
キュレネ (Cyrene) は、現リビア領内にあった古代ギリシャ都市で、この地方にあった5つのギリシャ都市の中で最大・最重要を誇った。
キュレネの衰退の原因の一つを主要交易品の枯渇に求める説がある。キュレネではシルフィウム(英語版)という薬草が採れ、街の建設以来、主要な輸出品であり続けた。シルフィウムは堕胎薬(英語版)である。キュレネで鋳造された硬貨のほとんどに、図案化されたシルフィウムが描かれている。金と同じ目方で取引されたというキュレネのシルフィウムのことは、ヘロドトスの『歴史』第4巻やプリニウスの『博物誌』に記述され、カトゥッルスの恋愛詩にも歌いこまれているが、紀元1世紀から3世紀ごろの間に採れなくなってしまったものと見られる。その原因は諸説あるが、当時ブリテン島と同じくらい湿潤であったキレナイカが乾燥化したことを示す考古学的証拠が見つかったことから、気候変動によりシルフィウムがキュレネに自生できなくなったとする説がある。
シルフィウムの最後の一本は皇帝ネロが食べてしまった(と言い伝えられている)。
絶滅後、代用品として中央アジアの「アサフェティダ」が使われるようになりました。
シルフィウムには薬効があると言われていました。
そのためか、現代に伝わっている古代レシピによると、料理に使用する時は加熱して使うだけではなく、生でも使うことがしばしばあったそうです(仕上げにふりかけるなど)。
古代料理ではその強いニオイも料理の一部として楽しんでいたようです。
ただしそのニオイを楽しんでいたのは古代の人全員ではなく、国によって反応や使われ方が異なっていたようです。
アサフェティダ(ヒング)もインドの人みんなが好きというわけではなく、やはり個人で好き嫌いがあるようです。
インド人シェフのブログ インド家庭料理ラニ オーナーシェフ
ヒング
http://blog.chefhariom.com/?eid=1283219
ものすごく臭い粉です。植物の天然樹脂を粉にしたもの。私は臭いが嫌いなので、ギーと同様、ほぼ料理には使いません。
シルフィウム(Silphium/silphion)
先述の「絶滅したと考えられている『シルフィウム(Silphium/silphion)』」についてはこんな話も。
確定したわけではないですが、2022年9月27日のこの記事では「可能性が高い」と紹介しています。
シルフィウム、以前にBBCが記事にしてたhttps://t.co/MBMzjVcNQK
いろんな料理に使うほか、媚薬など各種薬効があって大プリニウスも書き記した。銀と同じ重さの価値があるほど高額だったが栽培できなかった(自生してた地域が気候変化で絶滅したとか説がある)— ゆきまさかずよし (@Kyukimasa) September 28, 2022
【英語記事・翻訳ツール等を使って読んでください】Ancient ‘miracle plant,’ believed extinct, said rediscovered in Turkey[絶滅したと信じられていた古代の「奇跡の植物」がトルコで再発見された]
こちらの記事のほうが詳しいです
日本語記事
日経ビジネス 2022.12.16 絶滅とされた古代ローマ「幻の植物」をおそらく発見、食べてみた
引用元 ナショナルジオグラフィック2022.10.09(途中まで) 絶滅とされた古代ローマ「幻の植物」をおそらく発見、食べてみた
参考文献
世界のじゃがいも料理: 南米ペルーからヨーロッパ、アジアへ。郷土色あふれる100のレシピ