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おいしい小麦粉粥タイプのキュケオーンのつくりかた?

投稿日:2018-06-20 更新日:

ここまでのおはなし

タグ「キュケオーン」参照

小麦粉タイプ(カルタゴという古代国家の贅沢粥をキュケオーンとして紹介)が最近刊行された再現料理本に掲載されたため【小麦粉粥】という認識が広がっている。

しかしキルケーの元々の出典の「オデュッセイア」を参照すると材料を「大麦」としている訳本が多い。

(栽培・脱穀が容易な大麦が最初に食べられていた。後に時代が下って製粉技術が向上した後に小麦粉が食べられるようになったため、物語の時代は大麦が主に食べられていたのでは?などの理由が考えられる)

そのため「キュケオーン」は「大麦の粥」と考えられている。

その事を踏まえた上で「小麦粉粥」について考える。

 

 

約束された敗北のレシピ?

最近いちばん有名だと思われる小麦粉粥タイプの再現レシピについて。

キュケオーンのレシピについては「古代ギリシア・ローマの料理とレシピ」掲載のカトー(カルタゴの粥)レシピから卵増量水とミント葉追加、チーズの原材料の分量追加、(あと最初に小麦粉に吸水させる水の量がおそらく少なくなっている)という再調整がされて冊子に掲載されています。

恐らく全体的な味に関してはそこまで大差ない…?とは思うのですが、卵がかなり増えたのがどういう結果になるのか不明。

それで、粥自体のレシピは出典元から大差無いのですが、追加されていたリコッタチーズの材料の分量について、疑問点があったのでメモしておきます。

※ただし、そもそも牛乳+生クリームに果汁を入れてチーズにするという時点でリコッタチーズのレシピではなく、正確には「カッテージチーズ」のレシピである。リコッタチーズのレシピとしてホエーなしで牛乳に果汁または酢を加えるレシピも「家庭用レシピ」としてネットで散見されるため、以下はそのままリコッタチーズを牛乳で作るレシピで話を進めるが、正確には「ホエー」というカッテージチーズを作った時に出る水分を再利用して作るチーズがリコッタチーズで、カッテージチーズとは風味も異なる。

[メモ]カッテージチーズとリコッタチーズ

 

 

 

 

[疑問点]リコッタ(カッテージ)チーズに加えるレモン汁と塩

1.牛乳900ml+生クリーム180mlに対してレモン汁180ml(乳製品に対して約6対1の量)

2.レモン汁180ml は 大さじ12(大さじ1=15cc(ml))でレモン4~5個相当

3.塩大さじ1(約18 g)

 

標準的なリコッタチーズのレシピだと

レモンは 牛乳500ml~1l に対して大さじ3 (45ml レモン1個分相当)

塩はひとつまみ(約1g)ほどのレシピが多い。

この本の分量では平均的なレシピよりもレモンと塩をかなり多めに入れる指示になっています。

 

レモン(又は酢)は牛乳の凝固を促すものですが、多すぎるとチーズが固まらなくなるそうです(失敗談で時々見かける)

広島県尾道市瀬戸田町産 / 防腐剤・防かび剤不使用 / ご家庭用 わけあり(規格外品)/ レモン 3kg

次に塩の話です。

厚生労働省の「一日にとる塩の目安(目標値)」は「男性(12歳以上)…8グラム未満 女性(10歳以上)…7グラム未満」ですが、掲載のリコッタチーズのレシピは「4人分/塩大さじ1(18 g)」なので、そのまま作ると1人あたり4~4.5g前後となり、1日の目標塩分量の半分が取れてしまう計算なので、粥として食べるものにこの塩の量は多い気がします(贅沢なお粥という時点で健康料理ではありませんが…)。

1人あたり塩4.5gだと、ラーメン一食分の汁まで含めて完食した場合と同等の塩分が入っていることになるので、なんというか1品分の塩分としては多いという印象。

チーズ360gに対して塩18gという量は、塩分量は約5%という計算になります。

塩は本のレシピ分量に拠らず、まずは他レシピを参考にした程々の量で作ったほうが無難なのではと思います。

創健社 地中海の天日塩 700g×2袋

 

 

 

 

本に特に説明はないのですがチーズの水分量についても。

牛乳や生クリームの比重はすごい厳密に言うと水より少し重いのですが、今回は水と同じく1l=1kgで換算します。

牛乳900ml+生クリーム180ml+レモン汁180ml=1260g

これを分離させてチーズ部分を360gにする(30%弱にする)

後から粥として煮るためか水分大目の仕上がりを想定しているようです。

 

 

参考で、リコッタチーズのレシピで、材料の乳製品の分量が近いレシピです(レタスクラブ)

加熱については「時間」で解説しています。

材料(作りやすい分量・約280g分)

・牛乳…1L

・生クリーム…1/2カップ

・レモン汁…大さじ3

・塩 小さじ1/2 (2.5gほど)

※牛乳は生乳100%で成分無調整のものを使う。生クリームは乳脂肪分が多いもの(42%~47%など)を使う。

https://www.lettuceclub.net/recipe/dish/10916/

 

下記はリコッタチーズを作る際の加熱を「温度」で解説している記事です。自分がわかりやすい方の記事を参考にすると良いと思います。

イタリアの手作りリコッタチーズの作り方

https://tabicoffret.com/article/36632/index.html

 

 

 

キュケオーンのレシピの出典元まで遡ったのは、最近いちばん有名だと思われる小麦粉粥タイプの再現レシピの本に掲載されている塩増量リコッタチーズのレシピにどういう理由があるのか知りたかったからなのですが、元レシピ(カトーの「農業論」、それを引用した「ギリシア・ローマの料理とレシピ」)では、(リコッタ)チーズの作り方や材料の分量には触れていませんでした。

分かる範囲でさかのぼりましたが、塩やレモンをかなり多くした理由や、古代風のチーズのつくりかた等の説明はありませんでした(なので塩を強くした理由がよくわからない)。

 

推測するとしたら、フェタチーズに似せるつもりで、手作りリコッタチーズのレシピの塩分を強くした…?等の理由が考えられるのですが、とはいえフェタチーズの塩分は暑いギリシアで保存性を高めるためのものなので、食べる時は事前に塩抜きをします。(古代は塩抜きしてなかったとかだったらしらない)

フェタチーズ 200g

フェタチーズのレシピをざっくり見てみたのですが、チーズを作ってカードの状態まで持っていったら、塩水または塩の中に埋め込んで(塩釜焼きみたいな状態)40分~数日脱水するという作り方のようです(レシピによって時間が異なる。多分保存したい期間の長さによって異なる)。漬け終わったら食べる前に塩抜きしていただきます。

フェタチーズの作り方 きっちり作ろうとすると手間掛かりそうなので、キュケオン一食分くらいだったら買ったほうが楽だとは思います。勿論趣味で全自作してもOK。

ギリシャのフェタチーズは山羊と羊の乳ですが、牛乳で作ってもいいようです。

 

フレッシュ(非熟成)タイプの主な種類と美味しい食べ方

古代ギリシャで生まれた“現存する世界最古のチーズ”といわれている「フェタ」ですが、アテネ郊外に住む羊飼いが作り始めたのがオリジナルとされ2000年以上の歴史があります。羊乳が主体でそこに山羊乳を30%まで加えてつくることができ、塩味が強めなのが特徴です。オイル漬けになったものもあり、サラダのトッピングなどに活躍します。

https://www.tokyodairy.co.jp/magazine/fresh-cheese-varieties.html

 

高濃度の塩水につけて作られているので、食べるときは塩抜きを。塩水につけるのは、暑いギリシアで保存性を高めるための知恵なんです。

http://www.cheeseclub.co.jp/shopdetail/000000000073/

 

ついでで、リコッタチーズの説明も。

ほんのりとした甘みとミルクの風味がとてもおいしい「リコッタ」

チーズをつくる時に出る乳清(ホエー)と呼ばれる水分は、通常排出してしまうのですが、その乳清に新しいミルクかクリームを入れてもう一度煮つめてつくられるのがリコッタです。リコッタはイタリア語で“再び煮る”という意味で、チーズのつくり方からついた名前なんですね。

https://www.tokyodairy.co.jp/magazine/fresh-cheese-varieties.html

リコッタチーズのご家庭レシピだと、ホエーの代わりに牛乳だけで作ります。一般の家だとホエーを大量に調達するのが難しい等の理由だと思われます。

ホエーが用意できるのならホエーのみ、又はホエー+牛乳で作ったほうが本格的になります。

最初にカッテージチーズを作りその時出るホエーを使って二回目にリコッタチーズを作ったり、プレーンヨーグルトからホエーを持ってくるレシピもあります。

 

 

 

注意点・小麦粉に加える水分の量

セモリナ粉120gに対して水150ml

 (粉に対して約1対1.2ぐらいの量)

ホットケーキのレシピをいくつか確認したのですが、粉10に対して水分9前後、という割合のものが多かったです。

なのでこの比率、ホットケーキよりは水分が多いですが、お粥っぽい出来上がりになるかについてはどーだろうなこの水分量…という気はします。

元々の「古代ギリシア・ローマの料理とレシピ」の手順では「セモリナの粉はかぶるくらいに水をいれ10~15分浸しておく」と、水は分量を決められておらず、浸水させて小麦粉を柔らかくした後に水をこぼしてチーズと合わせて煮る、という手順だったようです。

水を定量にした時点で水分が足りなくなっているのかも?とも思うのですが、どういう意図で調節したのかよくわからないのでメモ程度で。

 

 

 

 

作ってみた皆様のレポートを読んでみた

というわけで最近いちばん有名だと思われる再現レシピ通りに作ってみた皆様の記事を読んで要点を抜き出してみました。

 

まずは現時点検索トップで出てくるブログの記事では、リコッタチーズを作る段で固まりがよくなかったため生クリームを足し、(結果的に)ハチミツを倍量にした記述があります。なんか色々あって強い味のものが出来てしまったようです…。

 

 

次の記事。検索上位に出てくる、ツイッターのモーメントで2回分の制作過程をまとめていらっしゃる方のキュケオーン作ってみた日記。

この方も「初回は塩気の強さが気になったので(二回目は)リコッタチーズは無塩の別レシピを調べた」と感想を述べています。

 

 

最後に、本に掲載の再現料理をいろいろ作っている方のキュケオーン製作のブログ記事。

この方はリコッタチーズ自体を最初から別レシピで作っていました。

豆乳でもコクのある♡手作りリコッタチーズ

https://cookpad.com/recipe/1626396

乳製品1100ml+塩ひとつまみ+レモン汁1個ぶん(40~50mlほど)、という平均的な分量で出来上がりも330gと、元レシピの出来上がりに近い量。

……なんだけど、最終的には粥の濃度が微妙に濃くなっていたようです。水を切りすぎたのか豆乳なのが原因なのか分からないですがむずかしいな!

 

 

 

元々使っていたレシピはちょっと違っていたらしい?

もう一つメモですが、以前筆者の人がイベントで提供して好評だったキュケオーンは、冊子掲載版とは違うレシピを使っていたようです(再現料理本 刊行前)。

 

きっかけは他ブログの「再現レシピを作ってみた記事」についていたコメントが気になっていたので検索してみた事でした。

麦粥なのに麦は使わないのでしょうか? 「キュケオーン レシピ」で出てくる他のサイトでは材料にセモリナ粉と大麦両方書いてありました(╹◡╹)

 

どんなレシピか見てみたくて「セモリナ粉」と「大麦」で検索してみたところ、「粉と大麦の入ったレシピ」は、今回の本の著者の方のブログの昔の記事に掲載されていたらしく、キャッシュがでてきました(現在はこのレシピは削除して冊子購入リンクになっているようです)

 

多分この記事だと思います(現時点での検索結果スクリーンショット)

 

セモリナ粉
大麦
ハチミツ
溶き卵 少々
リコッタチーズ
牛乳
生クリーム
レモン 2個 (※編注 大さじ6/90mlぐらい)
塩 2つまみ(※編注 2gぐらい)

この元々使っていたらしいレシピでは、粥用の小麦粉が冊子掲載レシピと比べて半量(あと半分は大麦が入っているので総量は一緒)になっていました。

そしてリコッタチーズ制作に使うレモンと塩の量が、一般的なリコッタチーズのレシピに近い分量でした。

イベントで提供していて実績もあったっぽい旧レシピの方が仕上がりが良さそうなのですが、なんで本にする時にチーズのレシピをレモン2倍、塩18倍に調節したんじゃろう…(何か不評だった?)

 

 

 

 

刺し穿つ死棘の槍(確実な死)を回避するために

というわけで、先人の皆様のレポートを鑑みて。

最近いちばん有名だと思われる再現レシピのキュケオーンを作るときに、味や仕上がりの硬さを重視するために注意したいことは2点。主にチーズ。

リコッタ・ディ・ブッファラ 約250g フレッシュチーズ イタリア産

チーズ自作時はもっとゆるい仕上がりにするか、煮る時に水の量を調節

 

 

 

リコッタチーズ作る時は最初は別のレシピを参照したほうがいい

平均的なものは牛乳1Lに対してレモン大さじ3と塩ひとつまみぐらいの分量になっているのでまずはそちらから。

著者さん的に何かの理由があったり、試作時にはうまくいき、プロのレシピ監修を受けている分量のようですが、プロレシピ過ぎてどうも一般人にはハードルが高いっぽいので、おいしく作るのを重視するなら最初は安全策を取ったほうが良いと思います。

掲載レシピ通りに作りたい場合は、レモンと塩分は様子を見て少しずつ追加で(チーズ凝固と仕上がり時の味の問題)。

先に述べたように、小麦粉やチーズの量は当時のお粥(カトーのレシピ:カルタゴのお粥)が元になっていますが、チーズの材料(塩とレモン汁が多い)については「どういった意味があるのかはっきり説明されてしていない」ので、ここを替えても「再現料理は成立する」と思います。

元のカトーのレシピだとチーズは厳密にはヤギとか羊のチーズを使っていたと考えられるので、再現をきっちりやりたかったらそっちを突き詰めて、フェタチーズを用意したほうが良いと思います。

または、牛乳→カッテージチーズとホエー → ホエー+牛乳 → リコッタチーズ、のように本格的にチーズを作る方向で突き詰めると楽しいと思いました。

 

 

 

 

リコッタチーズの水分は多めに残したほうがいいっぽい

リコッタチーズの硬さは、何度か作ってコツをつかむ感じだと思いますが、最初は水切りを少なく、ゆるめの硬さで作って良いんじゃないかなあと思います。

小麦粉は加熱するともったりと粘度が出ます(ホワイトソース作る時のことを思い出してください)。卵も入ってたらなおさら。

既に固めになってるチーズに小麦粉足して加熱したら普通にパンケーキの一歩手前なのでは…と思います。

古代ギリシア・ローマの料理とレシピでは「やわらかいチーズ」を使って、「すする」濃度のお粥になるという説明でしたが、そもそも最初のチーズの状態がよくわからないのが気になります。

あと気になるのは、(上でも書きましたが)新レシピでは小麦粉に吸水させる段で「水150ml」と固定されています。元のレシピでは「かぶるくらいに水を入れて10~15分浸しておく、柔らかくなったら水気を切る」となっています。(※古代調理法だと流水に晒して柔らかくするとかなんとか。この手順は簡易的な再現をしていると思われる)

新レシピだと水が一定量なので水切りの手間がなくて簡単ではありますが、粉の状態にかかわらず一定の水分量を加えるので、場合によっては硬めの仕上がりになるかもしれませんので注意。

 

 

制作の途中経過をネットにUPされている方が複数いらっしゃいますが、チーズの水分が少ない状態の写真の人は粥もそのまま硬い仕上がりになっているようです。

2回キュケオーンを試作した方も、初回は硬い仕上がりになっていましたが、2回目にリコッタチーズの水分量が多くひたひたな状態で料理に使ったことで、最終的にもったりとした粥っぽい仕上がりにすることに成功しています。

 

レシピ元の本の古代ギリシア・ローマの料理とレシピで試作を作っていた著者の人も「とろみの主な要素は柔らかな新しいチーズ(リコッタチーズに似たテクスチャー)」と記載しています。

最近いちばん有名だと思われる再現レシピ本ではその説明は省かれています。レモン汁をリコッタチーズの平均的なレシピよりかなり多く設定しているのはチーズを凝固させないようにしているのか?とも思うのですが不明です。

なので塩とレモンは減らしてもいいんじゃないかなあって……(個人の意見です)

 

 

 

 

大魔女から締めの一言

上の2点を注意すれば小麦粉粥タイプの再現キュケオーンがおいしくできる成功率が上がると思うよ。いいキュケオーンが出来上がるように祈っているよピグレット!ふふふ。

 

 

 

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